TAKEOの代表商品である「タガメサイダー」。昆虫食の認知が現在ほど広がっていなかった2019年に多くの人に昆虫食を楽しんでもらいたいという思いから「昆虫を魅力的に描いて大胆にパッケージに配置する」こと試みました。そのイラストを担当していただいたのが、グラフィックデザイナー・イラストレーターのトガシユウスケさん。今回はそのトガシさんのバックグラウンドやタガメイラストが誕生したストーリーも追っていきます。
富樫 祐介(トガシ ユウスケ)
山形県生まれ、山梨県在住。フラットデザインで様々な生き物を描くグラフィックデザイナー/イラストレーター。代表作に『タガメサイダー』TAKEO、『クモの奇妙な世界』家の光協会、『東京都のトンボ』いかだ社、『昆虫の惑星』辰巳出版、『学研の図鑑LIVE 新版 昆虫 付録ポスター』学研 などがある。
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昆虫たちの魅力を多くの人に広めたい
トガシさんは山形県の田舎で育ち、昆虫が遊び相手の幼少時代を過ごしたと言います。トガシさんのイラストの特徴は「フラットデザイン」と呼ばれる、簡略化した平面的な表現で昆虫を描いていること。この表現でイラストを描くのにはある思いがあるそうです。
「昆虫のイラストを描いている一番の理由は、昆虫達の魅力を多くの人に広めたいためです。そのためには、虫たちの魅力を最大限に伝えられる手法を用いる必要がありました。人はよく分からないもの、曖昧なものに恐れや、嫌悪感を覚えると言われています。『虫』というだけで、目を背けてしまう事が「得体が知れない怖い生きもの」という存在を作り出してしまっているのではないかと考えたのです。そのためシンプルなフラットデザインにすることで、その恐れを感じさせずに昆虫の魅力を伝える、ということを大切にしています。」
6年ほど前まで毛虫がとても苦手で怖い存在だった、というトガシさん。しかし、イラストを描くためによく観察してみると、不思議と苦手意識が薄らいだ、と言います。体の仕組みや行動を知る事で「得体の知れないもの」ではなくなり、今では可愛いと思う瞬間も。そんな経験を持つトガシさんはこう語ります。
「昆虫の形状や色彩をイラストで明解にする事で、昆虫への苦手意識を和らげ、潜在的な虫好きの発掘に一役買えたら嬉しい。」
共通の思いが生んだ「フルーティタガメ」
TAKEOがタガメサイダーを開発するにあたり、「昆虫食」であることを伝えるためにあえて昆虫の形を描くことこだわりました。ただ、写真に近すぎても抵抗感が増してしまい、シンプルにしすぎても昆虫らしさが損なわれてしまう、そのバランスが難しいー、そんな課題に直面していた時に出会ったのがトガシさんのフラットデザインで描く昆虫イラストでした。
「『タガメ+サイダー』という思いもしない組み合わせの商品開発を伺い、『田んぼの王者 タガメ』と『青春の飲み物 サイダー』が合体したらどんな商品が産まれるのだろうと冒険心のようなワクワクした気持ちを掻き立てられたことを覚えています。」
昆虫の見た目に抵抗がある方でも楽しめる商品にしたい、という思いで開発を進めていたタガメサイダー。当時、トガシさんにとっても「昆虫食」は未知の領域のようでしたが、想像以上にスムーズに受け入れていただきました。
「私がフラットデザインの昆虫イラストを描くうえで大切にしているのは『昆虫に抵抗がある方に昆虫の造形や色彩の美しさに気づいてもらいたい』という思い。今回のタガメも素材であるタイワンタガメの持つ洋梨のような芳醇な香りを色彩で表現し、一見怖く思われがちなタガメを親しみやすいキャラクターの造形になるように気をつけて描きました。」
トガシさんはタガメサイダーのイラストをその洋梨のような味のイメージから「フルーティタガメ」という愛称をつけれくれました。「昆虫への抵抗感をなくす」という共通の思いで制作を進め、「タイワンタガメ」+「洋梨」のイメージを合わせてデフォルメしたタガメサイダーのタガメが誕生した瞬間です。
恐れを感じさせずに昆虫の魅力を伝える
TAKEOでは2019年に発売した「タガメサイダー」は飲料品にとどまらず、様々なグッズをはじめ、タガメ研究を支援する「タガメ基金」や、タガメづくしのイベント「タガメナイト」などを展開していきます。その活動から「2022年度グッドデザイン賞」に選出され、コミュニケーションデザインとして高い評価をいただきました。トガシさんも出展イベントなどで「あのタガメサイダーの!」とお声がけいただくことがあるようで、社会からの注目が高まっていることを感じ、私たちもとても嬉しく感じています。
「『昆虫食』は人と昆虫との関わりを深める新たなジャンルであり、人の生活とは切り離せない『食』を通して昆虫に興味を持ってもらえるチャンスだと思っています。身近な自然環境を見つめ直すきっかけになれるよう、今まで以上に、自分が大事にしてきた『恐れを感じさせずに昆虫の魅力を伝える』がしっかりと達成できているか問いながら、これからも誠実に作品制作に向き合っていきたいです」(トガシさん)
最後に、自然や生き物、昆虫や昆虫食との今後の関わりで目指していることについて、トガシさんはこう語ります。
「私は幼い頃からイナゴの佃煮など郷土料理としての昆虫食が身近にありました。そのような経験から、多様な生き物が住める自然環境と共にある人々の暮らしに、豊かさの本質があると感じています。昨今の開発や里山の荒廃、外来種の影響などでかつて身近だった生き物たちが気付かぬ間に姿を消しています。そのなかでも影響が顕著なのが湿地や池に生息する昆虫です。特にタガメは豊かな里山環境の象徴のような存在。社会や農業の仕組みが変わった現代で、タガメが住めるような里山環境に関心も持ってもらえるよう、身近な昆虫達の存在を発信していきたいと考えています。 」
昆虫を野菜、魚、肉と同じように食として楽しんでもらえる、そんな昆虫食の魅力を伝えること大切にしているTAKEOも、この思いに通じるものを感じました。これからもトガシさんの思いと並走しながら、「わたしたちと昆虫食」のより良いあり方を考えていきたいと思います。
タガメサイダー
独自製法で抽出したタガメエキスを使用した新感覚の昆虫ドリンクです。タガメの持つフルーティーな香りを忠実に再現し、昆虫食を楽しむ新しい体験を提供します。