TAKEOの実店舗TAKE-NOKOにはさまざまなお客さんがいらっしゃいます。市場調査のための視察に来る企業の方も多いですが、ただふらっと遊びに来て昆虫を食べながらスタッフとおしゃべりを楽しむ常連さんもたくさんいます。そんな常連さんのひとり、版画を専攻する美大生の松原百香さんのストーリーをご紹介します。

松原 百香(まつばら ももか)

長野県岡谷市生まれ、日本大学芸術学部美術学科 版画専攻3年。好んで描くものは幼いころから好きな身近な生き物で、最近は人間の心のわだかまりや人間関係といったものをモチーフに選ぶことが多いです。

障がいを経て美術の道へ

幼少期から動く生き物が好きで、小学校の近くの池にいたオタマジャクシ、カダヤシ、メダカなどを捕まえて観察をするなど、池と草を好き勝手に行き来する毎日だったという松原さん。実家のある長野県に帰省した際にも、おじいさんと一緒に昆虫や小魚を捕まえに行くようなわんぱくで、マイペースな小学生でした。しかし中学校に進学してからは次第に登校拒否をするようになり、家に引きこもる毎日になってしまいました。そして摂食障害と診断され、経鼻栄養を使って強制的に栄養を摂ることになります。

「人はもちろんのこと、今まで好きだった生きものたちともまったくと言っていいほどに触れる機会が減り、自ら生きものからどんどんと離れていきました。振り返るとこの頃は新しい環境に馴染めず、思春期だったこともあり、捻じれて行き過ぎた美意識が重なって、このようになってしまったのだと思います。その美意識からか給食が苦手でしたが、自分の中でこだわりを捨てずになんとか食べることで自分の生命を繋いでいました。」

定時制の高校に進学してからは、中学校で追いつけなかった勉強を頑張ろうと必死になっていたことも影響し、そのバランスが保てず統合失調症を患ってしまいました。自意識過剰になったり、聞こえもしない声が聞こえたり、話しかけてくるなどの幻覚症状に苦しむ日々だったといいます。そのような精神的に不安定な期間を過ごしている中で出会ったのが美術だったそうです。

「美術館などに頻繁に足を運んだことをきっかけに、幼いころから絵を描くのは好きだったので、自己表現としての絵を描くようになりました。現在は、どちらも病状が治まりおだやかではありますが、この病気を経験したことにより、美術の道へ志すようになりました。 」

不安定な期間にも心の片隅には生き物が好きだという気持ちがずっと残っていました。そのためか松原さんの作品の中には、昆虫をはじめとした生き物の作品が多く見られます。

昆虫を対象にした作品

井上咲楽さんとの出会いから昆虫食の世界へ

松原さんに転機が訪れたのは、同級生の通う動物学校の学園祭での出来事でした。そこで展示されていたマダガスカルゴキブリ(通称:マダゴキ)の一種との出会いにとても心が動きました。

「ゴロンとした身体が魅力的で手のひらいっぱいに抱えこみ喜んでいたら、なんと1匹譲っていただけることになりました。家に持ち帰ると、虫嫌いの母親に『きもちわるい』と猛反対されましたが、私は聞く耳を持たずペットとして迎え入れることにしました。」

しかし、しばらくは他人の目が気になりマダゴキを飼育していることは誰にも話すことができませんでした。そんな生活がしばらく続いたある日、松原さんはタレントの井上咲楽さんをテレビで目にします。井上咲楽さんも生き物が好きでマダゴキを飼育しており、しかもさまざまな昆虫を食べているとのこと。それから松原さんはゴキブリそれ自体や昆虫を食べることを『きもちわるい』で片づけなくても良いのだと納得できるようになりました。

この頃から昆虫食に少しずつ興味が湧いてくるようになり、TAKEOが主催した「マダゴキ祭」にも足を運んでくれました。

「マダゴキを食べることができるメニューが出たのは驚きでした。しかも美味しいだって?目から鱗でした。たまにゴキブリって美味しいのかな?という話をされます。そのときは迷わずマダゴキは美味しいよ!と教えます。」

マダガスカルゴキブリをきっかけに、昆虫食を楽しむまでに
マダガスカルゴキブリをきっかけに、昆虫食を楽しむまでに

作品づくりと昆虫食へ思い

松原さんは作品をつくる際に人を楽しませたい、喜ばせたいという気持ちはほとんど無く、だから身近な家族などからそんなクリエイターの作品は誰も買ってくれないよ、と言われてしまうことも多いそうです。そして昆虫食に対しても同じだといいます。

「昆虫を食べるということに意味を見出していますか?と聞かれたら、『物珍しくて見た目が楽しいし、案外美味しいので食べてます。』と答えます。美味しい食べ物として人に勧めはしますが、無理強いはしません。地球のため、世の中のためではなく、私が美味しいと思って自主的に食べているだけに過ぎません。」

最後に、松原さんはご自身の作品づくりと昆虫食に対する思いを教えてくれました。

「私にとって、美術での作品づくりや昆虫をはじめとした生き物を愛でることは、それを食べることと対等なのかもしれません。その対象(受け取る側)のためではなく、自分が自発的に楽しんで自己満足のために行っていることだからです。」

昆虫食を自己表現の一つとして楽しむ松原さん。TAKE-NOKOには松原さんのような方以外にも、昆虫食に対してさまざまな思いを持つ方が来店されます。その一人ひとりの考えや価値観を尊重しながら、TAKEOも昆虫食を通じたコミュニケーションをこれからも大切にしていきたいと思います。

マダゴキのパリパリ麺サラダ

レモンと塩コショウで下味を付け、マダゴキをまるごと食べられるように高温で揚げ焼きに。外側のカリッと食感と、白身魚にも似た淡白な風味の中身を楽しむ一皿です。
※2022年TAKE-NOKO「マダゴキ祭」限定品。現在は提供していません。

1,280(税込)
マダゴキのパリパリ麺サラダ
このページをシェアする